蒼夏の螺旋

   “押し迫ってまいりましたね
 


54年ぶりに11月に雪が降ったかと思や、
6年ぶりに12月なのに15度以上の日があったり。
それでも日ごと、朝晩は冷え込むようになり、

『行ってらっしゃいだぞ、早く帰って来いよな♪』
『おお、努力はする。』

毎朝玄関までお見送りする大きなのっぽの旦那様へ、
屈強な肢体にぎゅうと抱き着き、
がっつり堅い胸板や二の腕をあらためて堪能しつつ。
今から出かけるというに そうと念を押すのが増えたのも、
玄関口の寒さにおおうと身が縮まり、
“早く温ったまりに帰って来いよ”と伝えたいからかもしれぬ。
そんなことしたら未練が残って出かけにくくなること、
頑張って冴えた表情の下へ隠してお出掛けなご亭主の気も知らず。
さてとと戻ったリビングで、時計代わりにつけてたテレビを見やれば、
ワイドショーのMCの人がニュースを一通り伝えた後の生活情報のコーナーが始まっており。
大掃除とか年賀状書きとか、
クリスマスの準備とか帰省の準備とか何かと忙しいですよねと語ってて。
押し詰まってか、押し迫ってか、いつも迷う言い回しだが、
迷ってるだけ暢気なもんだと傍らを忙しげにさっさか進む人もいるのが、
日本の“師走”という頃合いだそうで。

「む〜ん、俺はそんなに忙しいとは感じねぇけどな。」

男の二人暮らしで身軽だからかな。
大掃除ってもなぁ、俺が散らかしてもゾロがさりげなく片付けてるし。(おいおい)
じゃあなくて、キッチン周りはサンジがうるさかったから
汚れたら速攻で磨く癖がついてるし。
探し物が面倒だったらいつも同じ場所へ仕舞えばいいと、
定物定位とかいうのも、ああこれもサンジが言ってたんだっけな、と。
お母様のしつけ(笑)が案外と行き届いているルフィさん。
昼間は割と暇だから、
よ〜し♪って勢いつけてカーテンとかシーツとか毛布の洗濯もこまめにやってるし。

「そもそもウチは、季節感ってのが微妙だしな。」

大きい商社の営業部企画課、あれ?営業課企画部だったっけ?
そゆとこに勤めてるゾロなもんだから、
販売促進企画なんてのを扱ってる関係で、
何でもかんでも前倒しがもはや当たり前ってなっていて。
来年の話をすると鬼が笑う…どころじゃない、
クリスマスのキャンペーンの話なんて
輸入雑貨の関係もあってか
どうかしたら夏の終わりごろに詰めに入ってたし。
同じようなノリで、今はといや
海外のブランドをあたっては聖バレンタインデー関連のフェアへの
出店要請の詰めに入っているとかで。

『え〜。今年はゾロ、豆まきの企画は担当しねぇの?』
『まぁな。』

今や王道な企画になっているので、
段取りから何から任せることで新人に仕事に慣れてもらう練習台になってるらしく。

『〜〜〜〜。』
『安心しろ。恵方巻の試食はちゃんと頼まれてる。』
『やたっvv』

日頃の会話がこの調子なものだから、
余計に季節に合った行事とやらに現実味がないのかなぁなんて
む〜んと唸っておいでの小さな奥方だが、
なんの、マンション内のPC教室では
行事の多い小学生ともお付き合いがあるもんだから、

「…おっと。」

ローテーブルに置いてたスマホが着信を告げ、
手に取ると可愛らしいハンドルからのメールが届いており。

「そっか、塾でもパーティーやんのか♪」

隠し芸も頑張りますというお誘いのメールで、
一応大人組のルフィは招待される側ならしい。
小学生たちはまだ学校があるけれど、
だからこそ大人たちの大忙しなんて届かぬままか、
早く冬休みにならないかな、クリスマスには何もらおうかなんて、
指折り数えてワクワクしてもいるのだろうし。
子供たちにとってはそれが一種の “納会”みたいなものかも知れぬ。

「そーだなぁ。ゾロは甘いの苦手だし。」

ケーキだパフェだ、フルーツパンチだは子供たちと一緒に堪能しよか。
ゾロとは焼肉とか “ばんさん”を堪能すりゃいいと、
うくくと楽しげに笑い、自分も何か芸を見せにゃあななんて、
冬めいて冷たい風の吹く窓の外も気にならぬまま、
嬉しそうに思いを巡らせ始めていたそうな。




  〜Fine〜  16.12.07.


 *いやはや、いきなり寒くなってきましたが、
  実はこれで平年並みだそうで。
  う〜ん、こういう感覚になるから、乱高下ってのは困りものですね。
  とりあえずクリスマスのリースとか出さなきゃなぁ。

ご感想はこちらvv*めるふぉvv

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